夜の間、強い風と雨の音が聞こえてた。家族が起き抜けに、桜ももう散っちゃっただろうねと言う。家と職場を往復するばかりの毎日だけど、頭の中に桜の花があったようだ。家族に人間としての奥行きを感じた。

晴れたから駅前に歩いてむかう。桜の花びらが濡れてべちゃっと地面に貼り付いてた。日差しで乾いたものが強い風で足元をクルクルまわる。桜のトンネルは花吹雪。歩道はどこもピンクの砂を撒いたよう。ビルの入口に吹き寄せられて積もった様子は波打ち際の泡みたい。木の無い路地でも白い花びらがコロコロと駆け寄ってくる。どこにも桜の花びらが落ちてる。

豚ひき肉と豆腐のカレーを作った。冷凍してたカレーのもととカレールー、冷凍おくらを入れた。汁だけ残ってた大根の漬け物、その汁で乾燥わかめを戻してキャベツの漬け物と混ぜた。意外にちゃんとおいしかった。

ガスファンヒーターを箱に戻して押入れに片付けた。ここ数日、やらねばと心に浮かんだことをちゃんとやることができてる。調子がいいみたい。すぐ手をつけるとしても思いついたらとにかくまずメモに書く。調子がいいから、まずそのメモに書くということができてる。手を使って文字を書くことで、意識を頭の中だけで考える猛スピードから実際の身体を動かす速さに落とす。その字を自分の目で読むことで、ふわふわしたイメージに「やること」の形を持たせる。書いたものが残るから既にやったことにかかった時間や手間の大きさを現実的に感じられ、次のやることを始めるハードルが下がる。これらがいい流れを作っているような気がしてる。たぶん調子のよさは次第に薄れていくだろうけど、うまくやれた感触はおぼえておきたい。

道路沿いに桜が咲いてそうなところを何ヶ所か、車で通過してきた。花を見に集まる人たちに混ざるのが苦手だから車の中から花を見る。道路からきれいに見えるところはこの時期はだいたい渋滞してるからゆっくり見られて丁度いい。名古屋市内の3ヶ所に行った。

植田一本松から植田駅。街と木の年齢的なものか、枝の高さや花の密度がちょうどいい木が多くて、車から眺めて通過するのにぴったり。

弥富公園から八勝通り。この道は桜の木が古いっぽい。幹が太い、枝が大きいけど、道路を覆う枝は刈られてしまったようで以前のような迫力がなくなった。子供の頃、たしかここに青空市があって来るたびにみたらし団子を買ってもらっていた気がする。

市大薬学部から瑞穂警察署。このあたりはいつだったか一斉に桜の木が植え替えられて、ずいぶん貧相な見た目になってしまっていたのだけれど。木が育ってずいぶん見栄えが良くなっていた。ここは私も家族も以前の様子を知っていて、そのころの思い出ばなしなどを披露し合いながら通過した。

家族が出掛けていったから、夕方にプールへ行った。駅前は桜見物の人たちがうろうろしていた。中高生ぐらいの子供を連れた4人家族を何組も見た。時間帯にもよるのだろうけど、街の性格を見たような気になった。

帰り道、暗い中でいつもの空き地に通りかかる。たんぽぽはひとつも咲いてなかった。夜は花を閉じるんだね。気にしたこともなかった。

この前食べておいしかった冷凍焼きビーフンと白和えをまた買った。それと今度はエビピラフ。キャベツの漬け物に油とクミンをかけた。マヨネーズとウスターソースと一味唐辛子をつけて魚肉ソーセージを食べた。食べ過ぎてお腹がいっぱいになった。

空き地のたんぽぽたちが地面から浮き上ってた。数日前は背が低すぎて地面の草の上に花だけ置いてあるように見えたのに。成長して茎が伸びたのかな。花が咲いてるときに茎は伸びないと理由もなく思っていた。意外に思った。

駅前の桜はたぶん満開。商店街では道にテントを張って週末に花を見に来る客への準備をしていた。花よりも花のすぐあとの新しい葉に目がいく。いい色だ。写真ではうまく撮れなかった。

今日の海藻はのり。みそ汁に板のりを小さくちぎって入れた。溶けて汁を濁らせただけで、のりの味はどこかに行ってしまった。ちぎらずに板のままで入れたらよかったのかも。

家族が映画を観に行くのを送り迎えした。待ってる間に劇場近くのスーパー銭湯に行った。湯上がりくつろぎスペースにある漫画本が目的だったけど、目当てのタイトルは置いてなかった。まんが喫茶へ行くよりも安く済むと思ったけど、あてが外れた。じーっと湯に浸かって時間が過ぎるのを待った。

帰りにデニーズに行った。インターネットでどこかの誰かが絶賛していた担々麺を食べてみることにした。食べた。おいしかった。スープは日清麺職人、めんはミスタードーナツの飲茶メニューを思い出させた。どちらも最後に食べたのは10年以上も前だけど、それらをよく食べていた当時の記憶が頭をかすめていった。住んでいた部屋、通っていた店、あの人やこの人、いろいろな場面の断片が浮かぶが、とくに何かの感情を呼び起こされることはなかった。浮かんだイメージはぼんやりしたまま掴めずに消えていった。